ブラッシングは局所(歯肉)だけの健康対策か
ブラッシングは、う蝕・歯周病の治療と再発予防とに有効な手段であるとの認識は定着したといえる。
しかしその理解は、中程度以上の歯周疾患においては、手術の前準備あるいは後処置としての程度のものでしかないのではなかろうか。
現状からすれば、歯周病治療を望む患者のほとんどが、初期の時期を見逃し、重症に進行したあと、歯肉膿瘍併発による不快、疼痛等の症状があって初めて自覚するのが殆どであることから、めざましい回復効果をブラッシングにだけ求めることは至難であろう。だからといって、ブラッシングの効果を、手術可能な状態にまで鎮静させる術前処置、あるいは術後処置と認識している歯科医は、未熟・拙劣なブラッシング指導の結果だけを見ているためだと断言したい。
そのために往々、ブラッシングの限界と見誤り、性急に手術処置に頼ろうとするのだろう。
そのことはまた、手術後のブラッシングについても同様で、不十分、不徹底であるゆえ,必ず再発を繰り返す。
これに反し、十全な指導によるブラッシングの効果があるならば、手術処置以上の効果が得られたになる。
もっと読む生活習慣をどのようにして改善するか
個々人のそれぞれの行動は社会的に制御され、みんなでやることは正しいことになるし、それに抗うことは悪となる。
そのようにして意識下で行動は選ばれ、行われ、繰り返され、そして習慣は作られてきた。
家庭内においてすら、自分一人だけが歯を磨く習慣を改善しようとしても、それなりの抵抗がつきまとう。
よく噛むことについても、子供に学校から「早く食事をすませるよう家庭でしつけてください」などの注意があると、早く食べろと叱られたり、おしゃべりするなと注意されたりもする。(昭和56年2月21日,朝日新聞)
このような不理解による反対のために、習慣改善の実行困難な場合が多いのが実情であることをまず理解する必要がある。
ブラッシング習慣改善の補助的方法1人1人の努力をどのように力づけ、続けさせ、旧習からの脱出に成功させるかは、やる気になったとしても、多方面からのきめ細やかな援助がぜひ必要で、従来の指示あるいは注意をするだけが主治医の任務と意識している立場から、やる気にならせることだけでなく、達成まであらゆる援助を続ける新しい別の立場に立たなければならないことを明瞭に意識しなければならない(P.L.エントラルゴ著『治療参加から患者のための医療へ.医療の主体性の変換一医者と患者』109頁,平凡社)。
5mm程度の歯周ポケットは必ず外科的に除去しなければならないのか
ls it necessary to get rid of about 5 mm gingival pocket by surgical operation ?
ー歯周ポケットの外科的除去は、必ずしも永続的な歯肉の健康に寄与しないとの見解が、再び強調されてきつつある。この根拠および外科的除去に代わる処置法はなにか、またその臨床的限界はー
要約
はじめに
歯周疾患治療に対する普遍的願望は、自身の歯で咀嚼できる再発のない回復である。
歯周疾患治療の普遍的目標は,歯周ポケットのない永続的な健康歯肉の回復である。
その方法の1つとして、外科的除去が行われるが,外科的に歯周ポケットを除去・消失させたとしても、処置後「永続的にその状態を保つことができる」とはかぎらない。
永続的に病因が除去されないかぎり(ポケット形成の病因が温存されたままであるならば)、より短期間に再発して歯周ポケットは必ず再形成される。
外科的処置によってどのように形態的に変化させたとしても、そのことによって病因プラークを永続的に除去することは絶対にできない。
永続的に病因プラークを除去することができるのは、患者自身の生活改善によるしかない。
患者自身でそれが(生活改善)できるようにしむける手段が必須初動準備処置であり、変わってもらうことが包括歯科医療の柱であり、健康生活の支えである。効果的な動機づけ
主な手段
- 細菌を見せる
基本的には、位相差顕微鏡とTVモニターによって、患者に細菌の塊(歯垢)を見せる。
その結果、歯垢が細菌の塊であり、それが悪さをする、歯磨きでバラバラにすれば害をしない、
さらに常在菌と呼ばれる微生物が口腔内に存在することは却って体には必要、などの理解が一気に進んだ。- 消毒・清掃
患者は痛む所(患部)ばかり気にして磨く。このことで歯肉に一層傷つける。
その結果、治しているのか悪くしているのか分からなくなる。
「悪い所を直接こするのではなく、悪くない健全な所をこすれ」
・・・
前提としては、プロによるクリーニングとルート・プレーニングによって、徹底的に細菌を減少させておくこと。待合室の役割
受付が始まるまで
簡素で清潔。
患者の不安感と孤立感を和らげる。
知りたい気持ちを満たす何かが必要。歯科医と患者の出会い
患者の不安と期待、歯科医の果たすべき任務が遭遇する瞬間。
立て看板の利用
歯や健康に関する内容のパネル。
ごくわずかな装飾
医院や医療者の紹介を代行するようなもの。
立て看板の一例
位相差顕微鏡
適正な療養の課目(主としてブラッシング)の励行を可能にする情報提供、しかも最も効果的な方法として位相差顕微鏡を利用。
病因を理解させるためには本人の歯垢内容を正しく認知してもらうことが大切。
スライド写真の利用
歯周疾患の場合
患者と同程度の他の症例の治療経過のスライドを3枚見せる。
①患者と同程度の初診のスライド
②療養励行後1週間のスライド
③治療後のスライドう蝕治療主訴の場合
同様に、治療経過の記録スライドを3枚見せる。
①患者より重症の症例の初診時スライド
②患者とほぼ同程度まで治癒したもの
③大変望ましい状態にまで治癒したもの指導用器具
位相差顕微鏡・顕微鏡モニター・シャーカステン・照射ライト付き手鏡・プロジェクター初診日の指導順序
⒈問診 指導室 同情的、冷静沈着
⒉検診 予診室 口腔内検診、レ線撮影、スタディモデル、盲嚢測定
⒊位相差顕微鏡、テレビ供覧 指導室 歯垢内容の確定と説明
⒋排膿、盲嚢、歯垢停滞量・停滞域の認知 予診室あるいは指導室 正しい含嗽方法、次回までのブラッシング指導
(従来の方法との違いを確認させる)⒌他の症例のスライドによる回復経過の認知 指導室 療養の効果と重要性の認識、患者の治療意欲の高揚
(患者の自覚の確認)
患者応対者の条件
相手を理解し共感する態度
受付の対応が、人と人との触れ合いの第一歩として始まる。
要領よく、簡単に、事務的でなければならないと思う。
百貨店のエレベーターや案内係りの「いらっしやいませ」から始まる鄭重な物腰などは全く商業主義の表現以外の何物でもない。
ただ一言、「お痛みですか,大変ですね」とか、「できるだけ早く進めますが、ほんのしばらくお待ち下さい」とか、心配しながら来院している病人に対しての心からの同情が、一言で伝わるようでありたい。
素質的には、比較観察の能力と他人の精神的状態を想像的に理解できる能力とが必要。
表れ方としては、歓迎して喜んでもらえるような暖かな心と、生き生きと共感する心をもっての応対であろう。
「表面的で技術的なやさしさ」ほどラポールを損うものはない。
そのようなことよりも、その人の真意を率直に出すことの方が、たとえそっけなく感じられたとしても、結果においては救われる。カウンセラーに求められるもの
人と人との触れ合い、病人と医療従事者との触れ合いには、ラポールの重要性をしっかり認識しておくことが最も大切である。
精神治療の場を参考までにあげると、ラポールを高める条件としてカウンセラーに求められるものは、
- カウンセラーが,その暖い気持ち、誠実さを(表面に)表すことができること。
- クライエントの行動や言葉に対して、すぐ善悪の判断を下したり、批判的な態度を取ったりしないこと。
- 相談面接が他の人に見られたり、聞かれたりしないこと。またカウンセラーが、打ち明けられた秘密を絶対他に洩らさないこと。
- カウンセラーが、相談面接場面以外においてはクライエントと密接な交渉をもっていないこと。両者はある点では非常に親密であるが、また他の面では一定の距離をもっていること。
- 話し合いの焦点がクライエントとその問題に向けられていること。カウンセラーのこと(人格,感情,経歴など)はほとんど話題にならず、彼(あるいは彼女)はむしろ舞台裏にいること。
- 相談面接においては、社会的禁制(タブー)が解かれ自由に表現されうること。これによってクライエントは情緒を自由に表現し、洞察を深める。
- カウンセリングの関係を続けたいと希望すれば、もっと続けることができるということがわかれば、クライエントの気持ちはもっと安定する。
- カウンセラーがよい評判をもっていること。それにより、クライエントはカウンセリングが有益であると感じ、クライエントは進歩、改善への機会を得られる。
これらのカウンセリングにおけるラポールを高める条件は、相談内容状況の異なる受付問診にそのまま当てはめることはできないかも知れないが、上述の2、3は、十分活用されうるものであり、むしろ積極的にこれらの条件を整えることによりラポールを高めることができるものと考えられる。
食生活改善への動機づけ
W.A. プライス著『食生活と身体の退化』を活用する
痛みを除き、一時的ではあっても機能を(暫間義歯などによって)回復させる救急処置を行ないながら、同時的にできるだけ治療の早期に口腔局所の病因を理解させ、患者自身で排除する努力を援助すると同特に、全身的抵抗力減弱と治療効果の関係、歯や歯肉が弱く、病気にかかりやすい体になる原因、それらがともに食物に関係することの理解を深め、食事改善に導き、具体的方策を示し実行に移らせる。これらの療養の重要性は、他科においてイニシャルセラピーとして安静を命じ、広く輸液法が用いられているのと同様であるが、歯科臨床の実際では簡単なことではない。
食事指導は、短時日の目覚ましい効果によって励まされることは期待できないし、その実行度を検証することも難しい。したがって、プラークコントロールの指導より一層困難である。
その動機づけの方法としては,権威ある本からの抜粋、コピーなどを教材とするしかないが、永らく適当なものがみつからなかった。
数年前からやっと 全訳自費出版 にこぎつけたW.A.プライスの『食生活と身体の退化』ほどに、適切で有効な図書はなかった。
治療の際に、口腔疾患と食生活の見直しの必要性を説明・指導する代わりに、患者に貸し出し読んでもらった。
治療の理論的枠組
治療の理論的な枠組としては次の3つがあげられる。
⑴ 原因除去療法
⑵ 病変改善療法
⑶ 回復療法⑴ 原因除去療法(initial preparation) ‥‥‥ 枠組の第一は原因完全排除の治療
① 外因の除去
② 素因の排除(V・M・Nの回復と増強)
口腔疾患の主なる原因はプラークの停滞であるが、ホストの状態を軽視することはできない。プラーク・コントロールと同様に強調されねばならない。
原因除去は治療のための不可欠な条件で、病変が軽度で自然治癒力が強く発動する場合、この処置だけで治癒する。